市内とその近郊を合わせると、クアラルンプールには現在、30校以上のインターナショナルスクールがあります。さらに毎年新設校が誕生しており、各校がしのぎを削っている状況です。
そんななかで、イギリスの伝統名門校の分校ということでひと際注目されているのが、「エプソムカレッジ・マレーシア」。学費の高さと設備の豪華さを見て、私はお金持ちの良家の子女が、教養やマナーを教わる場所なんだろうな、と勝手に思っていました。
ところが何度か取材してみると、その実態は“グローバル・マッチョ養成所”!? 勉強だけでなくスポーツや芸術にも力を入れ、学生たちは休む暇もないほどハードなアクティビティに追われています。英語をベースに、あらゆる活動を通じて学生たちが自分のやりたいことを見つけつつ、グローバルに使えるコミュニケーション能力を鍛える−−そんな学校像が浮かび上がってきました。
では、エプソムはマレーシアにある一般的なインターナショナルスクールとどう違うのでしょうか。マーティン・ジョージ校長にうかがいました。
「まず広大な敷地と設備。第二に伝統ある英国のボーディング・スクール初の分校であること、第三に、英国で特別な訓練を受けた教師陣がいることでしょう」
勉強だけではない、ありとあらゆる環境を提供
実際に訪問してみると、まず敷地の大きさが目を引きます。50エーカー以上の広い敷地に、クリケット場、ラグビー場、ホッケー場、フットボールコートなど、6つのグラウンドを始めとするスポーツ施設、300人収容の音楽ホール、3Dプリンターのあるアート・デザイン・テクノロジーセンターなどを備えます。
しかし、たった数百人の生徒のために、なぜこんなに広い敷地とたくさんの設備が必要なのでしょうか?
「豊かで幅広いカリキュラムを提供するためには、課外活動同様、大規模な施設やリソースが不可欠です。生徒たちは自分の専門的知識や願望の限界にチャレンジするようになるのです」と、マーティン校長。
エプソムカレッジ・マレーシアの特徴は「全方向教育」。これは勉強だけでなく、スポーツ、文化、社交を含めた体験をさせるというもの。中学生は週に10種類ものCCAと呼ばれるクラブ活動が義務づけられており、生徒たちは「忙しい」と口を揃えます。マレーシアではスポーツや芸術活動よりも勉学重視の学校が多いなか、クラブ活動を十分にさせる姿勢は独特です。
「私たちは機械やコンピュータではないので、肉体や感情、精神や社交などを無視すると、うまくいかないのです。このアプローチは幸福や健康、繁栄、バランス、そして人生の喜びにつながります。どれも学業だけでは生み出せないものです。
私の経験上、保護者たちはこの全方向の教育コンセプトを理解しています。学業で優秀な成績を収めることはもちろんのこと、子供達はやればさらにできることを私たちは知っているのです」と、マーティン校長は説明します。
「社交」も重要です。英国の伝統的な「ハウスシステム」を採用し、寮生たちはハウスマスターやハウスミストレスたちと一緒に、大きな家族のように生活します。
現在、226人が寮生活を送っていますが、比較的自由度が高いのが特徴。一学期間を学校の敷地内にある寮で過ごす「フルボーディング」のほかに、週末だけ家に帰る「デイボーディング」や自宅通学も可能です。寮に入っていない子供たちもハウスに所属し、ときにはバーベキューや映画、音楽イベント、ゲーム・ナイトなどの多彩な行事に参加します。
19カ国の国籍の子どもたちが一同に学ぶ
エプソムカレッジには、英語のサポートクラスがあり、英語を母国語としない生徒たちの受け入れも積極的に行っています。現在、プレップ(小学生)69名、シニア(中・高校生)271人が学んでいますが、生徒の国籍は19カ国に及びます。うち数が多いのは、イギリス人、日本人、韓国人。日本人生徒は全部で14人います。
「日本の生徒たちですか? 熱心に学ぶすばらしい子どもたちですよ。刺激的な環境のなか、多様性に適応しています。実際のところ、ほかのティーンエイジャーの子どもたちと比べて、彼らは際立っています」と校長。
母国語の維持も重視されており、クラブ活動では週に一度、日本人向けに日本人の専門教師が指導します。これは、マレーシアのインターナショナルスクールでは、非常に珍しい取り組みといえます。
「エプソムに入れば、あなたの子どもはほかと比較できないような手厚いケア、驚くべき機会、高い教育を与えられ、そして幸せになることでしょう。ここでは皆さんの子どもは、まるで私たち自身の子どものように扱われるのです」とマーティン校長は結んでくれました。
では、そんなエプソムで寮生活を送る日本人生徒から見た学校とは、一体どのようなものなのでしょう? 次回、彼らの日常生活に迫ります。