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10代で自分の道を見極めることができる学校
12歳の「エプソムカレッジ」1泊2日体験記

取材・文/野本響子(マレーシア在住ジャーナリスト)

先月、筆者の長男に、エプソムカレッジの1泊体験に行ってもらいました。
彼は日本の学校を1年経験したのち、7歳からマレーシアに来て、現在12歳、現地のインターナショナルスクールに通っています。日本では小学校6年ですが、こちらではYear7(中学1年)です。母語は日本語ですが、英語を話し、中国語とマレー語も勉強中。
エプソムと同様の英国式の2つのインターナショナルスクールを経験している彼に、エプソムのYear7(中学1年)の授業に参加してもらい、体験内容を教えてもらいました。

2日間、一度も教科書を使わなかった

学校の第一印象は?

まず学校の広さと設備のすごさ、学校の美しさに圧倒された。先生たちはイギリス人が多く、ある先生が全員の子の名前を覚えて挨拶していたのに驚いた。全体に礼儀正しい雰囲気だった。

白を基調にした学校は、落ち着いた雰囲気で美しい

授業はどうだった?

授業は全部とても楽しかった。クラスの人数がかなり少なくて、発言する機会が多い。2日間、一度も教科書を開かなかった。

教科書を使わないでどうやって授業するの?

例えば地理の授業では、まず先生が「南極を管理してる国はいくつある?」と全員に聞く。その後、答えである50カ国の国旗が電子黒板に表示されて、クラス全員で国の名前を埋めていった。3つくらい誰もわからない国旗があって、ちょっと悲しかったけど。
算数はカードの束を渡され、書いてある単語を説明して当てるゲームをした。説明するのに使ってはいけない「タブーワード」がある。例えば「Triangle(三角形)」を説明するとき「Shape」という単語を使ってはダメとかね。中国語は自分の自己紹介のポスターを作った。コンピュータでは、Google DriveやGoogleプラスの使い方を学んだ。

今の学校も似たようなアクティブ・ラーニング式の授業なのでは?

似たことはやるけど、エプソムと比べたらもう少し教科書を使うと思った。マレーシアで最初に通った学校も同じケンブリッジ式だけど、黒板と教科書がメインで日本の学校に近かった。

授業風景の一コマ。少人数で自分の意見を言う機会が多く、授業に参加している感がある

10代で自分の道を見つけられる学校

授業やクラブ活動で感じたことは?

1つのことを伸ばすのではなく、全部を伸ばす教育だと感じた。僕はアートや算数が好きだけど、体育や音楽も奨励される感じ。先生たちは個人をよく見ていて、僕が「これやりたいです」と言っても「君にはいい経験になるからこっちをやりなさい」っていう。

全部なんでもやるということなのかなと思った。「やりたいことをやることによって、他のことをやらないという状況」を阻止していると思った。

どういうこと?

先生が一人ひとりに均等に物事をさせる。僕がクラブ活動で3Dプリンター(アート)をやりたいと言ったら、先生はいつも僕が絵を描いているのを知っているらしく「君は音楽やったらいい経験になるよ」と「ストンプ(リズムを使ったパフォーマンス)を勧めてくれた。今の学校の先生も一人ひとりをよく見ているけど、あえて違う道のオススメはしないかな。

苦手なことをやってみたらどうだった?

自分にも食わず嫌いが多いと思った。自分じゃストンプは選択しないと思ったけど、やってみたら楽しかった。体育も、実際にラグビーもやってみたら楽しかったし。新しいことを自分の興味とは関係なく学べた。

ラグビーが楽しかった? 運動嫌いだったのでは。

おそらく、僕は単に面倒臭いだけなんだよね。あと、マレーシアでは他の学校もそうだけど、下手な子をやじったりする子が少ないからうまくできなくても恥ずかしくない。さらにエプソムではみんなかなり礼儀正しいし、人を馬鹿にするような雰囲気がない。

なぜあえて苦手なことをさせるのだろう?

おいしいかおいしくないか全部トライして味を見極めることができる。本来は(やりたいことを探すのに)周りの草をちょっとずつ刈って道を開くのだけど、エプソムでは全方面の草を一気に刈る。するとすべての道が見えるようになって、自分に本当に合っていることが見つかる。
僕たちが普段シャベル使っているとしたら、エプソムはショベルカー使ってるみたいな。一枚上手を行くみたいな感じ。

工作室にあるレーザーカッター。「ろくろ」もあり、ありとあらゆる体験ができる。家具の制作をしている生徒もいた

この学校にずっといたらどうなると思う?

自分にいちばん適したものを見つけられると思う。僕は今、プログラミングと絵にはまってるけど、もしかしたら今自分がやっているよりもさらに合う新しい趣味が見つかるかもしれないと思った。

可能性が圧倒的に広がるから、全部やってみて結局プログラミングにしたとしても、安心して集中し突っ走れるよね。それから礼儀正しくなり、時間やスケジュールを守るようになると思う。

10代で自分にあったものが見つけられたら良いのでは?

最高だよね。夢に向かって努力できる。全部知っておかないと、夢を決められない感があるじゃん。もしかしたらもっと新しい趣味が見つかるかもと思ったら、突っ走れないじゃん。少なくともエプソムにいる間に見つけることはできるよね。

もう一つ、ここではすべてのステータスを平均的に上げるので、対応力、柔軟力が上がると思った。一個に精通してると他の能力は標準より少なくなっていくでしょ。プログラミングだけやってる子は、プログラミングの世界が終わるとヤバイでしょ。

忙しいからいじめが起きる暇がない

1日の流れはどんな感じだった?

起床の後、シャワー、朝のゲーム時間、朝食、フリータイム(短時間)、ホームルーム、授業、ランチ、集合、フリータイム(短時間)、授業、CCA(クラブ活動)、夕飯、宿題&本読みタイム、フリータイム(1〜2時間ほど)、シャワー、消灯。忙しい。

寮生活はどうだった?

まず部屋はホテルみたいで、ベッドがすばらしかった。トイレもきれいで熱いシャワーも出た。ビリヤードや囲碁、ピアノで遊んだ。寮のすべてにミュージックルームと休む空間とリビングルームがある。

寮にはゲームの部屋があり、ビリヤードなどで自由時間に遊ぶことができる

食事があまりおいしくないと言っている生徒もいるよね。

食堂の食事はとてもおいしかった。目の前でパスタを調理するまさかのライブクッキングで感動した。

生徒たちの雰囲気は?

マレーシアの学校は大体そうだけれども、フレンドリーですぐに声をかけてくる。ただ、エプソムはより生徒たちが礼儀正しい印象があった。今、通っている学校はマレーシア人(中華系・インド系・マレー系)ばかりだけれど、エプソムは環境がグローバルで、ヨーロッパ人、韓国人や中国人、他にもいろんな国の子がいた。

エプソムで困ったことは?

とにかく忙しくて、常にスケジュールのことを考えて動かないといけない。これにはちょっと戸惑った。ここの生活に慣れるのにはしばらくかかると言われた。

ヨーロッパ人の先生は、日本の学校よりは圧倒的にフレンドリー。けれどマレーシア人の先生よりはずっとシリアスな感じ。英語の語尾に「ラー」とかつけないしね。

マレーシア人の先生たちは、10分遅刻しても「アイヨー、なんで遅れてるのラー」みたいな感じで笑いがある。エプソムでは2分でも遅れたら「遅いよ」って言われるし、5分なら叱られる。あとイギリス人の先生には、僕のジョークが全然受けなかった(笑)。

日本の学校と比べたらどう?

日本の学校は先生がそもそも一人ひとりの個性を見ている余裕がないというか……。先生の目が届いてないし、その子の個性を見て何をやらせようなんて決められないと思う。

この学校でいじめは起きると思う?

起きないと思う。いじめている暇がない。とにかく勉強でも遊びでも忙しいうえに、先生の目が届きまくっている。これは今、通っている学校も同じかな。
寮生活での友達って家族みたいなものだし、家族をいじめると気まずくなるから、いじめはないんじゃないかな。先生も逆らえない雰囲気だし、逆らうと人生が辛くなりそう。

一般的なマレーシアの学校と比べて違いがある?

先生や生徒がフレンドリーでウエルカムなのは、マレーシアのインターナショナルスクールに多分共通している。発言機会の多い授業も同じ。ただここは学校でありとあらゆることを経験する前提に施設がつくられていると思った。

3Dプリンターもあれば、運動場もたくさんあり、音楽スタジオが10以上もある。校内のイベントの規模も大きい。この日には世界で有名なサッカー選手が来て講演していて圧倒された。本物を見ることで、プロ選手を目指したい人は励みになるし、やる気が出る。こんな有名な人が来てくれるのなら、もしかしたらプロにも手が届くかもと思えるよね。

とにかく生徒に世界中のすべてを見せようとしている感じがした。この学校にはいれば自分の人生が見つけられるんじゃないかなと思った。

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たった2日の滞在でしたが、子どもながら、広い敷地や豪華な設備だけではなく、学校側がそれらを活用し、ときには外部からプロフェッショナルを呼んで「本物を見せる」姿勢には驚いたようです。親としても、こんな学校に子供を入れられたら、たとえ数年でも良い経験になるだろうなと思いました。